高島に連れて来られたのは、大きな川が流れている田舎町だった。

観光客もあまりおらず、静かな田園風景が広がっている。



「気持ちのいい所ね」


川の側にある駐車場に車を止め、車外に降り立った。


「うん、やっぱ田舎はいいな」


アオムシの口から出てくる言葉に吹き出す。


「何だよ」


振り向く顔に答えた。


「何だか可笑しい。高島さんの口からそんな言葉が出てくるなんて」


食べ物のことばかり言っていそうな雰囲気があった。

1週間ばかり一緒に住んでいたけれど、食事の時以外は殆ど顔も合わさなかったからかもしれない。


「俺のこと何も知らないくせによく言うよ」


(そっちこそ私の全部を知っている訳ではないでしょう)


言いたくなる言葉を呑み込んだ。

余計なことを言うと、あの話を持ち出されそうで嫌だった。


「この町で美味しいお蕎麦が食べれるの?」


歩き出す男について行く。


「うん、でも…他にもいいとこがあるんだ」


「いいとこ?」


「そっ。あそこ!」


指指す場所を眺めた。


「川?」


視線を向けて聞く。


「うん、あそこでちょっと遊んでこうぜ!」


「遊ぶ!?子供じゃあるまいし」


「カツラはお子様だろう。お似合いじゃねぇか」


「酷い!幾ら私でもね……」


「いいから来い」


聞いてもくれないし。


(っもう!なんだって言うのよ!)