「これ入れると旨いんだよ。試しに1パックだけ入れてくれ!食費は俺が払うから」


「えっ?お金ないんじゃないですか?」


だから、一昨日から何も食べてなかったんだったよね。



「仕事の金が入ったら払う!だからコレだけ頼む!」


熱心に頼み込むもんだから根負けした。

すき焼きの材料の中で際立つおでん材料。



(やっぱりこの人って変……)


この餅巾着みたいな存在だな…と思いつつ買い物を済ませて家に戻った。





「直ぐに作ってあげるから」


キッチンのテーブルの上にエコバッグを置いて振り返ると、試食を散々食い荒らしていた男は切なそうな顔で、「頼みます……」と呟いた。


頭に被っているタオルが解けそうになっている。

その隙間から零れ落ちている前髪が、広過ぎもしない額に差し掛かっている。

虚ろな眼差しには何が写っているのか知らないけれど、やっぱり少しだけイケメン風だ。



クン…と微かに心臓の動きが変わった。

でも、直ぐに現実に戻る。



(早く食べさせて追い出そう。でないと、ロクなことにならない…)



男は信用しないに限る。

…と言うか、信用してはいけない生き物だ。





「あんたさぁ……」


「あんたじゃありません。仙道 藤です」


きちんと名前を使って呼んで欲しい。

私とこの人は他人なんだから。



「カツラぁーー」


「呼び捨ても禁止!」