「はっはっはっはっ!…そうか、顔見知りなのかね」


立ち去ろうとしていた本堂の中に逆戻りしていた。

住職は私の話を聞き、上機嫌で笑いだした。


「藤さん、さっき言っていた壁塗りをしていた男と言うのはこの人のことだよ」


「はあ…(やっぱり)」


返事をしながら息を吐く。


「何だよ。そのノラねぇ返事は」


表から入ってきた男は相変わらずな調子で睨んだ。


「ノラなくてはいけませんか?」


つい口答えしてしまう。


「母のことを知っていたのならそうと、言ってくれても良かったと思いますけど…」


ノルとかノラないとか以前の問題だ。


「カツラのお母さんだと知ったのは仏壇の写真を見てからだ。最初から知っていた訳じゃねぇ」


「それでも…!」


「…まぁまぁ、そうケンカ腰で話さんでも良かろう」


住職に止められた。

まるで子供同士の喧嘩の仲裁みたいだ。


「2人が出会ったのも何かのご縁あってのことだ。再会を果たしたのなら、袖が触れ合っただけでもなかろう」


ええ、ええ。

食費も光熱費も触れ合ってますとも!


「仲良く話でもなさればいい。私は檀家参りでもしてくるから」


「えっ、では、私も……」


立ち上がろうとすると、視界に端にいる男が呟いた。



「逃げなくてもいいだろう」


「に、逃げてなんか……」


吸い込まれそうな目ヂカラに動きが止まる。