「出て行ったの?」


カフェテリアの窓辺で音無さんと休憩中。

昨夜、高島と最後の晩餐を済ませ、やっと送り出した…と話したところ。


「出て行ったんじゃなくて、行くべき場所へ帰ったのよ」


語弊のある言い方をしないで欲しい。

私はアルコールを飲んでいる高島を軽く引き止めようとしたんだから。


「行くべき場所って何処?」


「…さぁ?でも、宛てはあるって言ってた」


左官の師匠の所へ転がり込んだのかもしれないし、もしかしたら、兄弟や親のいる実家にでも行ったのかもしれない。


「仙道さんツレないわね」


「ツレる必要なんて元からないでしょ」


何も知らない者同士。

1週間一緒に居ただけ。


「寂しくなったんじゃない?」


「ううん…ホッとしてる」


逆の言葉ばかりを吐き出す。

泣きはらした瞼の重みがそれを物語っている。


「いよいよホントのお一人様ね……」


そんな佗しい言い方をされると落ち込む。

好きで1人になった訳じゃない。


「お一人様も案外いいもんよ。何でも自分の思う通りにできるしね」


ご飯は好きな物を作ればいいし、テレビだって何を見ても文句を言われたりしない。

お風呂が長湯になろうが、眠る時間が遅くなろうが、構う者もいないから気が楽。


生活音は自分が奏でるものだけ。

その他は全て無に近い。


「私には考えられないわ。そんな生活」