「遥に謝りなさい!」

「私のことはいいから。柊くん、きっと突然のことでびっくりしたんだよ」


宥めるような声で庇われて、さっきの自分の態度を心底後悔してしまった。

いっそのこと、悪口でも言われた方がよかった。
そしたらこんな風に感じることなんてなかったのかもしれないのに、優しくされたら自分の態度を反省するしかない。


「あとでよく言っておくから」

「本当にいいから。それより、早く課題しようよ」


怒りが鎮まらない有紀に話す遥さんの声音は、やっぱり柔らかくて優しい。罪悪感からなのか、彼女の声を聞いていると胸の奥が苦しくなった。


程なくして、ふたりは隣の有紀の部屋に入った。


壁越しに聞こえてくる話し声を妙に意識してしまうのは、きっと抱いたままの罪悪感のせい。
遥さんが俺のことを怒っていないかが気になって、ダメだとわかっているのに聞き耳を立てそうになる。


「あー、もう!なんだよ!」


やり場のない気持ちが募り、俺らしくもなかった態度を思い返しては自己嫌悪する。


別に、女子が苦手なわけじゃない。

クラスメイトとは普通に会話をするし、部活のマネージャーとだって他の部員たちよりも話している方だと思う。
今までに会った有紀の友人には可愛がって貰うことが多かったから、初対面でもフランクに接することすらあった。


それなのに……。
さっきは、どうしても言葉が出てこなかった。


こんなことは初めてで、自分の中の知らなかった部分に戸惑いを隠せない。

楽しげな声が聞こえてくる壁の向こう側がやけに気になって、ついつい有紀の部屋の方ばかりを見てしまう。


この日、遥さんが帰るまで俺の心が休まることはなかった──。