「有紀……?遅すぎ、ってなに──」

『あんた、来月休める?』


俺の話を遮った有紀が、落ち着いた口調でそんなことを訊いてきた。


「え?」

『そうね……だいたい、三日くらいでいいかな』

「なんで?」


さっきの言葉の意味すら理解できていない俺には、有紀の意図を読み取れない。頭の中には疑問符が飛び交っていたけれど、有紀に『どうなの?』と答えを急かされて慌てて口を開いた。


「その気になれば、なんとかなると思う。……たぶん」


咄嗟に自分が抱えている仕事量を計算して不安になったけれど、今はそんなことよりも有紀の意図を知りたい。
だって、きっと今までとはなにかが違う。


『遥に会わせてあげる』


そんな風に感じていた俺の耳に届いたのは、予想以上の言葉だった。


「……え?まじかよ」

『あんたのしつこさに免じて、お姉さまがひと肌脱いであげる』


せめて、一途……とかにして欲しいんだけど。


心の中で呟きながらも、すぐにそんなことはどうでもよくなった。
今はそれよりも、もっと重要なことがあるのだから。


『ただし、条件がある』

「なんだよ?」


思わず身構えてしまったけれど、どんな条件でも飲むつもりでいた。
今の俺にとって、遥さんに会うことができるのなら、そのくらいの覚悟を持つのは難しくはなかった。


ブランド物か、有名店のエステか。
ふと頭に浮かんだのは、そんな高額な条件ばかりだったけれど……。


『遥のこと、泣かせないでよ』


耳もとで優しく告げられたのは、思わず笑みが零れるようなものだった。


嬉しさのあまり胸の奥が熱くなってその熱が目頭にまで伝わったことは、一生誰にも言わないでおこう──。