「さゆりちゃん、待って!」



「…合わせる顔が…ないんです…っ!」




二人の足音が静かな森に響く。






「…お願いだから…もぅ…放っておいて…っ

昇くんに…酷いこと言った…っ

泣かせて…しまった…っ

私が…貴女たちと一緒にいる資格なんてない…っ」





「さゆりちゃん、落ち着いて。僕の話を聞いて!」




「放してっ!!!」





やっと掴んだ手は、すごい勢いで振り払われる。






「止めて…止めてよ…

どうせ…私のこと嫌いになるのに…」





「…嫌いになったりなんかしないよ…?」




さゆりちゃんの苦痛の顔がさらに歪む。

『嘘だ』と頭を抱える彼女に僕は歩みを進めた。






「僕らの父親はね、昇が車にひかれそうなところを庇って死んだんだ

だから昇は父親が死んだのは自分のせいだと思ってる」




さゆりちゃんは衝撃をうけた顔でこちらを凝視した。




「…私…本当に…なんてことを…」




「そうだよ…君の言った言葉が傷付かない訳がない…。

───だけど昇は『辛い』『悲しい』なんて言わなかった

さゆりちゃんの方が辛そうだって可哀想だって。

そういって泣いたんだ」




彼女の大きな目からポロポロと涙が溢れる。




「…昇に酷いことを言って、嫌われたと思った…?

嫌われたから、離れなくちゃと思った…?

そんなの君の勘違いだ

昇は君が好きだ

そして僕も君の小さな微笑みを見たときから、守らなくちゃって思った」




あともう少しで彼女に届く。

この思いも一緒に届いてほしい。





「…僕らが何で優しくすると思う…?

…僕が何で君を追いかけてきたと思う…?」





「…何で…っ?そんな、の…分かんない…っ!!!」




また逃げ出そうとする彼女の腕を引っ張った。

胸元でもがくのを逃がすまいと腕で固定する。






「───家族だから。


君は僕らの大切な…大事な家族だからだよ…」





抱き締めた小さな体が、小刻みに震える。

力なく垂れ下がった彼女に頭は僕の肩にもたれて、





「─うっ…うっ…ぐずっ、ひっく、」



小さな嗚咽を上げた。



我慢するかのようにギュッと服を掴んだ手。




抵抗しなくなった小さな彼女に『我慢はよしなさい』と言って背中を撫でてやる。



すると堰を切ったかのように



「うぁぁぁぁぁ…っっ」




大きな声で泣き出した。




きっと、ずっとずっと我慢して来たんだろう。




───やれやれ、世話のかかる妹が出来たものだね…。




トホホと空を見上げて見ると、
黒闇が少しずつ晴れて日がさしてくる。



夜が明けたのだ。