【響也side】
「──平山…っ…どこまで言ったんだよ…」
優伊が隣で肩を揺らしている。
ずっと泣いてた昇を泣き止ませ、寝かしつけた後、
ちょうど帰ってきたようだ。
「…見つからない?」
「公園まで、一周してきたけど何処にもいなかった」
「じゃあ、もう森の方しかないね…」
あそこは野犬がうろついてる。
早く行かないと大変なことになるかもしれない…。
「優伊、昇のことお願いできる?」
「いや、でも響にぃ…」
「お願いね?」
有無を言わさぬ言葉に優伊は押し黙る。
「…分かったよ」
優伊が頷くのを確認して、家を飛び出した。
──僕も幼い頃、あの森の中に入ったことがある。
そこで野犬の群れに囲まれて、怖くて泣いていたら
『響ちゃんを苛めないで!』
と、幼なじみの女の子が棒を振り回して助けてくれた。
思い出したら、情けないな僕。
好きな子に助けられたとか、恥ずかしいにもほどがある。
───まぁ、それはともかく、野犬の恐ろしさは僕が一番知ってる。
探しに行った優伊まで襲われたら、シャレにならない。
「早く見つけてあげないと…」
木の枝を避けて進んでいく。
大声で名前を呼んで歩いてみてはいるけれど、
一向に返事が帰ってくる気配がない。
「そろそろ折り返した方がいいのかな…」
かれこれ一時間ほど歩いてる。
僕の歩くスピードだったら、とっくに追い付いていると思うんだけど…
携帯も山の中だから圏外だし…
もしかしたら、とっくに家に帰ってきている可能性だってある。
「引き返すか」
Uターンしようとしたその時、ガサガサと奥の方から物音が聞こえた。
「さゆりちゃん…!?」
「…き…響也…さ…ん…!」
揺れる人影から聞こえるか細い声。
踵を返して逃げるその姿を僕は追いかけた。