優しくて、少し悲しげな微笑みに泣きそうになった。


「母さん、あれで結構繊細だからあんまり怒らないであげて〜」


わかってる…。


恵美さんも海里さんも、私を気遣ってくれていることはわかるよ。


いい人なのは分かるんだよ



でもね



「私に…優しくしないで…」



それが。その気遣いが私にはツライの。

とてもとても怖いの。



「……さゆりちゃん…」



何を思ったのか、海里さんは私を引き寄せて抱きしめた。


「は、離して!」



「だーめ!さゆりんが泣くまで離さなーい」


ドSか!



「もう、我慢しないの」


「我慢なんてしてない…です」



マリンの香りが私を包む。
無性に泣きたくなって目をふせた。



「なんで溜め込むかな〜」



苦笑して腕を緩める。顔をのぞきこみ
コツンとおでこをあわせる。



「俺はさゆりんの笑顔好きだけどなぁー」



見上げた海里さんの顔は妙にニヤニヤしていた。


「な、ななな!なんなんですか!」


恥ずかしいんだけど!


「さゆりちゃんの笑顔めっちゃ可愛いし、もう一回みたいなぁー」


私をいじる海里さんはもうスッカリいつものチャラ男に戻っていた。


「からかわないでくださいっ!!」


海里さんが大人っぽかったのはきっと気のせいだ。気のせい気のせい!



「ほぉー!海里ちゃぁーん。黙ってみていたら私の可愛いさゆりちゃんに何をしているのかしらぁー?」


背後で物凄い殺気を感じた。恵美さんだ。


「母さんのさゆりんじゃないもんねー!ねー、さゆりん!」


同意を求められても困ります。




「ほほー、私も舐められたものね!いいわ!」


恵美さんは息を大きく吸うと一気に吐き出した。



「あんたさゆりちゃんになにしてんのよぉぉぉぉーーー!!!!」


ーーーードタドタとととドドド!!


たくさんの足音と響く恵美さんの声。
海里さんは焦ったように『わ〜』と嘆いた。


「どうしたの母さん!!」


「さゆねぇ、どうしたの?」


「お姉ちゃん大丈夫!?」


「海里!またお前かテメェ!!」



大地さんの低い声に海里さんが震え上がる。



「...今度ばかりは俺悪くなくない...?」



隣で聞こえた弱々しい声に思わず苦笑いした。



「...憲法第172条、13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をしたものは
6月以上10年以下、または大地にぃからのテキサスクローパーホールドが処される...」



いやいや...薫くん真顔で冗談言うのやめて!



あきらかに最後の『テキサスクローパーホールド』は憲法じゃないよね...!?



「裁判官、判決をお願いします...」



大地さんはそう言いながら、指をポキポキ鳴らした。



「は~い!判決は...」


昇くんが裁判官なんだ...!



「無罪ですっ!!」



「「無罪かいっ!!!」」



大地さんと海里さんが声をそろえて突っ込んだ。







ーーーふっ...


口元から声が漏れる。


意味わかんない。変な気持ち。


「なんなの...」


「ど、さゆりちゃん!どうしたの?」


「嫌い。皆大嫌い。」



モヤモヤっとした気持ちに取り込まれ息をするのが辛くなる。


「っー...貴女たちなんて...貴女たちっなんて...っ」


そこでやっと、自分が泣いているのに気がついた。



「貴女たちなんて大嫌いっ!!」



早く早く、切捨てないと辛くなる。

焦りと不安。



ここが好きなの。貴女たちが好きよ。


だからこそ好きのままでいたい。


だからこそ大好きになる前に切捨てたいの。