『さゆり、ごめんね…』
闇に消えていく後ろ姿。
それが貴女を見た最後。
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「さゆりちゃん!!さゆりちゃーん!!」
はっ!!
目を開くと目の前に恵美さんがいた。
「だいしょーぶ?熱のせいかしら?魘されてたわよ」
「恵美さん……」
息をつくとグッと起き上がった。
「え!まだダメよ~、寝てなさい」
そういってグイグイ私を布団に倒す。
「でも、もう熱下がりましたし…」
何よりも迷惑かけちゃったから。
「もう、寝てればいいのに!」
ふて腐れた恵美さんを無視して立ち上がる。
「ママは心配してるんですからね~」
「ママって言うの止めてください」
きつく言った私に恵美さんは驚いた顔をした。
「…ごめんなさい………」
「もしかして、さゆりちゃん寝起きわるいっ!?」
消え入りそうな声に恵美さんのバカデカイ声が重なった。
「いやー知らずにごめんごめん」
なんなの?恵美さん。KYなの?
さっき、またあの夢みて、人を好きになっちゃダメだと確信したのに。
「……嫌いです……」
「え、なんていいましたの?」
「私、恵美さんのこと嫌いです」
「やだー、さゆりちゃんのツンデレ発動?」
なんてポジティブシンキング!!
あーいやだな。イライラしてきた。
「あのさーさゆりちゃん…辛くてもまた歩き始めないといけないよ?」
突然、恵美さんは真剣な表情になった。
「……っ」
「逃げちゃダメだよ。立ち向かわないと」
「…………てない…」
「え?」
「逃げてないっ!!!」
波立つ感情に揺られながら弱い意志を引き締める。
「私はいつだって戦ってきたんだ!ママにも友達にも彼氏にも真っ直ぐぶつかったよ!だけどダメだったんだ!!ダメだったんだよ!!」
「…それはさゆりちゃんの心が弱かったからよ」
「そうだよ!!弱いの!弱いから自分を守るんだ!!」
「このままでいいの?」
止めてほしい。この人たちは私の固まった意志をすぐにほどいてしまう。
「なんでも手に入れている恵美さんに!!何が分かるっていうの!!!分かったふりしないで!!」
バンッと扉を開けて飛び出すと、廊下で驚いた顔の海里さんがいて、ぶつかりそうになった寸前で足を止めた。
「さゆりちゃん……」
上から聞こえてくる声に顔をあげる。
「い、!?」
海里さんは笑顔で私の頬を引っ張った。
「も~うさゆりん可愛いんだからそんなしかめっ面しないのー!」
ワハハと笑いながら私の頬をを挟んだ指で目元をなぞる。
「眉がよってるよー」
ぐいっと眉間のシワを人差し指で押すと『はい』と言ってポンポンと私の頭を撫でた。
……いつものチャラい海里さんじゃない…
