【響也side】
『ママを……思い出したんです…』
こっそり廊下から聞いていた。
さゆりちゃんのすすり泣く声も、聞こえてた。
いったい、過去に何があったの?
出会った時は驚いた。
中学生らしかぬ、あの瞳。
とても綺麗な瞳なのに、哀しみや憎しみ。怒りがそこに映っていた。
誰も寄せ付けない大きな拒絶。
あえて、そこに飛び込んだのは君がかわいそうに思えたから。
ーーー同情していたんだ。
「匠さん。さゆりちゃんのこと…教えてもらえませんか…?」
そう聞くと、兄弟は皆、聞き入った。
僕だけじゃない。
皆、さゆりちゃんのことが気になっていた。
“教えてください。さゆりちゃんの過去を”
ーーー話す内容はとても理解しがたいものだった。
同情なんて、できたものじゃないーー。