「気を付け、礼」



授業が終わって号令をする。



帰る支度をしながらふと思い出した。



そういえば桜井くん、『話したいことがある』って言ってたような……。



そうだったら悪いことしたな。勝手に帰っちゃったものね。



でもだからって、あの後で顔を合わせるのは気まずい。



私、桜井くんの手を、思いっきりはらっちゃったし。




………はぁ………





もういいか。




帰ろう。





バッグを持ち廊下に出たら、





「うわっ………」





「あ、平山!」





桜井 優伊。





この人は顔を合わせずらいって気持ちないのかな?




「よかったわーまだ、帰ってなくて。」




「あ……うん」




なんか周りの視線が刺さるんですけど。




「話すことがあるって言ったよな」




「……うん」



「とりあえず、帰り一緒に帰れる?」



「大丈夫」



二人で並んで歩いていると周りからこそこそと話し声が聞こえてくる。



『あの二人って付き合ってるの?』

『えーショックー!』





ーー安心してください。付き合ってませんよ。




「あの……さっきはゴメン…」



「え……」



「だから……手、はたいちゃってゴメンね…」



「あ……」



思い出したように目を丸める。



「俺の方こそ、嫌なこと言ってゴメン」




「違う。私が悪いの…桜井くんはよかれと思って言ってくれたんでしょ」




許せないのは私。私はいつも矛盾してるから。
一緒にいてくれる人を拒みながらどこか心の底で『寂しい』と思う自分がいる。



おとうさんの再婚の件もそうだった。



家族になることに反対する自分と、



父の再婚を一緒に喜びたい自分。



闇を持ち続ける私と光に憧れている私がいた。




だからーー……




「…私……嫌なの…」




一緒にいるって言ってくれたのを少しでも『嬉しい』と感じるのが辛かった。





「桜井くんに言われた言葉で喜ぶ自分が。
ーーーその『嬉しい』と感じたことも裏切られたら『悲しい』ことに変わってしまう。」




桜井くん、『何言ってんだこいつ』って笑うよね……。



「……平山って……」



うん








「案外バカだよね」




「………」




「兄妹が裏切りあうことってある?」




「ーーー源頼朝が弟の源義経を裏切って……」





「それ昔のことでしょ?」




「…………遺された遺産相続の争奪で兄弟をバッサリとかは?」




「サスペンスドラマの見すぎだな」





よくわからないよ。兄弟って。

私、一人っ子だもん。





「ま、とにかく」




桜井くんが私の目をのぞきこむ。




「お互い信頼しあうことが大事なんじゃね」




ニカッと笑う。




「俺は信頼するよ。平山のこと」


信頼、か…。


私にはほど遠い言葉だな…。




「分かったから」




目をそらせるように彼の肩をグイッと押した。





「…それより話しがあるんだよね?」



「ああ、そうだった」




忘れてたの?




「春休み、空いてる?」



「うん…」



スケジュール、スカスカだよ。