「和泉さん」


あぁもう、と和泉は思う。
いつまでも抱きしめられたままでいるのは性に合わない。
和泉は人の体温など必要としていないのだ。
欲しいのはミウミウの鞄とケイトスペードの新作だ。

いつまでも寺田総馬の趣味に付き合っているほど暇ではない。


「寺田さん。」

「ん?」

「目、つぶってください」


言われた通りに目を閉じる寺田総馬。
笑いを堪えているその口元が憎らしい。

踵を上げ背伸びする。
息がかかる距離。
押し付けるように、寺田総馬の唇に口付けた。


「これで満足ですか?」


そう言って和泉は軽く寺田総馬の腕を押しのける。
行き場を無くした寺田総馬の腕をが宙に浮く。
寺田総馬の願いは叶えた。
もう拘束から抜け出してもいいだろう。


「え、あぁ、そうだな」


和泉の質問になんとも曖昧な返事をして寺田総馬はヘニャッと笑った。


「その締まりのない顔どうにかしてください」

「だってなぁ、」


ゆるゆるとした寺田総馬に、こんなことで幸せになるのかと和泉はある意味感動した。
手を繋ぐだけ。
抱きしめられるだけ。
和泉からキスするだけ。

お金もかからないし、ほんの数秒、身体の接触があるだけなのに。
私には分からないなぁ、と和泉は思う。
分かろうとも思わないが。

ふわふわの寺田総馬を置いて和泉はさっさと次の店に行こうとする。
しかしニコニコしながら抜け目のない寺田総馬はしっかりと和泉の後をついてきた。
しかもどさくさに紛れて手も握られてしまった。

指と指とが絡み合う。
ちゃっかり恋人つなぎしてきたなこの男。

今度絶対ミウミウの鞄買ってもらおう。
胸元で揺れる丸いネックレスを見ながら、和泉はそう決意した。




ちなみに店の目の前で和泉達にいちゃつかれた店主はやってられるかと早々に店じまいをした。