「せっかちな男ですね」
「え、いやでも付き合って一ヶ月は経ったぞ。そろそろキスでもいいかなーって思ってだな、」
「そこじゃないです。手を繋ぐとかハグとかすっ飛ばしてキスしたところが、です。」
「は?和泉さんそんなの気にしてたのか?」
そんなの、と言われてカチンときた。
知らず眉間のシワが深くなる。
「物事には順番ってものがあるでしょう。」
「そこ重要か?」
「重要です。こっちの心の準備がしやすくなります。」
和泉がそう言えば、ハハハッと何故か寺田総馬が笑った。
和泉さんこそ小学生みたいじゃないか、と言ったところでみぞおちに一発叩き込む。
寺田総馬が思いっきり咳き込んだがいい気味だ。
和泉は馬鹿にされるのが大嫌いなのだ。
「分かった、最初からやり直すから」
予想外に早く寺田総馬は復活した。
そして、すまんすまん、と言いながら和泉の両手をぎゅっと握りしめてきた。
その顔は今までになくニコニコしている。
和泉はなんとなくおもしろくなくてムスッとした顔を続ける。
「悪かったから、機嫌直してくれ」
そう言うと今度は背中に手を回してきてぎゅっと抱きしめられた。
寺田総馬の厚い胸板に鼻がぶつかる。
生暖かい息が首筋にかかる。
解放された両手をどうすればいいのか分からず、とりあえずそっと寺田総馬の服を掴んでおいた。
「それで、」
「はい?」
「心の準備はできたか?」
ニマニマしながら寺田総馬がそう聞いてくる。
その緩みきった顔が気にくわない。
キッと睨みつけると困ったように笑われた。
彼に主導権を握られるのは癪に触る。
和泉が無言でいたらふにっと頬にキスをしてきた。


