寺田総馬が言うには、なんでも骨董市とは名ばかりで、今では陶器を作る人達の作品展示の場になっているらしい。
昔はちゃんと骨董を売っていたらしいが。
今では若い人や観光客にも受けるようにマグカップや皿などを比較的安値で売っているそうだ。

別に陶器に興味があるわけでもないが、偶には寺田総馬の趣味に付き合ってあげるべきだろう。

「いいですよ。」

「そうか。じゃあ今度の水曜に」


楽しみだなぁと言う総馬に和泉はそうですかとだけ返した。


水曜日はすぐに来た。
骨董市は、和泉の想像以上の賑わいを見せていた。
小さなハンドメイドの集まりかと思ったがそうでもなく、かなりの高級店も店を出している。

大通りの両端に店がずらっと並んでいるのは壮観だ。
チラホラと屋台も出ていて、休めるように工夫されているらしい。
人もかなりいて、まるでお祭りのような賑わいだ。


「けっこうすごいだろ?」

「そうですね。」


ぶらぶらと屋台を見て回りながら和泉と寺田総馬はそんな話をする。
ハンドメイドの物は色が深く、品が良いものが多いのでマグカップか何か一つ買おうかなと和泉は思う。

黒みがかったマグカップが陳列する屋台。
そこに入った時、寺田総馬が何か言いたげな様子をしていることに気づいた。


「なんですか?」

「え、」


振り返ってそう尋ねれば、一瞬びくりとする。
その後、何故か気まずげに右下に視線を向ける。


「えっと、そのだな、手を繋がないか?」

「は?嫌ですけど」

「和泉さんに期待した俺が馬鹿だった!」


いやそこは普通断らないだろう!と総馬は抗議してくる。
面倒くさい男だなと思いながら和泉は渋々身体を向ける。


「そうじゃなくてですね、今マグカップ選んでるんですよ。普通選ぶ時持って確かめますよね?今手を繋いだらどうなると思います?片手で持つことになりますよ。危ないでしょう。」


一息で言い切ると再びマグカップに向き直る。
寺田総馬は動きを止めていたがどうでもいいから放っておく。

深い焦げ茶色のベースに淡いピンク色で少しずつ小さな模様を描いてる茶碗。
カップじゃなくてこれもいいなと思う。
和泉がじっくりとその茶碗を持って眺めているとスッと寺田総馬が隣にやってきた。

その雰囲気はかなりフワフワしている。
顔を見なくても彼がニヤけているのが分かった。


「和泉さんそれ欲しいのか。」

「候補には入れておこうと思って。」


食器類は多すぎても困るのだ。
買うのは気に入った一つでいい。

「和泉さん。」

「なんですか。」

「選んでるときじゃなければいいのか?」

「別にいいですよ。手くらい。付き合ってるんですから。」


和泉がそう言えば「そっか」と寺田総馬はこぼす。
その声がなんとも幸せそうで和泉はむず痒くなる。
寺田総馬は知らない。
和泉の別にいいですよ、は別に(どうでも)いいですよという意味だということを。