「で、その紙袋はどうしたの?お前の母さんの誕生日はまだ先だろう。」

「ん?これか。」


総馬の足下に置いてあった真紅の紙袋。
あれは確かフェラガモのだと思ったが。

大谷の印象では総馬はブランド品に全く興味がないようだったから、彼がブランドの紙袋を持っているのは違和感があった。

自分のためにブランドものを買うような奴じゃないから、おそらく親へのプレゼントだろう。
何か考えて親孝行しようという気になったのかもしれない。

だが、実際はそうではなかった。


「とりあえず、これで粘ろうと思ってな。」

「……どういうことだ。」

「俺には分かるはずもないと決めつけられるのは癪でな。先に皮肉ってきたのは向こうなんだから、俺が分かるまで説明してもらおうと思ってな。」


ふっふっふっ、と総馬はそう言って笑った。
本人的には頭脳派の悪人をイメージしたつもりで笑ったのだろうが、大谷にはその女に良いように使われてるようにしか見えなかった。

はー、とため息を吐き頭を抱える。


「お前、それ、絶対貢がされてるって。」

「いや、彼女には要らないと言われたぞ。」

「それなら尚更なんで買ったんだよ。」


今から思い返せば分かることだが、あの時の大谷には分からなかった。
総馬も総馬で無意識だったのだろう。

馬鹿高いフェラガモを彼女でもない女のために買うなんて、意味の分からない総馬の行動が執着から来ていたなどとは。

よくやるなぁ、などと思いながら大谷は総馬を冷めた目で見ていた。



次の時は、総馬はいくつかの本を抱え込んでやってきた。

理系の総馬のことだから次の論文の資料かとも思ったがそうではないようだ。


「なんでお前が先の大戦の史料本持ってるんだ。」


まさか史学科に気になる子でもいるのかと問えば違うと笑われた。


「ちょっと和泉さんが話してたことでな。反論したいんだが、知らないことには反論のしようもなくてな。」

「和泉さん?」

「あぁ、俺が前々から話してた女性だ。彼女とこの前ラーメン屋に行った時にナムト国の話から発展してな。」

「へぇ。」


ラーメン屋。
若い男女がラーメン屋とはまたなんとも色気のない話だ。

まぁ、総馬とその和泉さんとやらは付き合っているわけではないらしいからムードなど必要ないだろうが。