図書館で寺田総馬に鉢合わせたのが運の尽きだった。

現在和泉は数分前の図書館に行こうと思いついた自分を恨みながら寺田総馬と一緒に歩いていた。
だが、今回は長く話す必要はなさそうだ。
なんでもロビア大学から有名な教授が講義に来るそうで、寺田総馬はそれに出席したいらしい。

今度の論文のテーマがその教授が今取り組んでいるものと同じらしく、教授とは違った切り口でやってみようと考えているそうだ。
その教授がいかにすごい人か滔々と寺田総馬は語っている。

へー、と和泉は適当に聞き流しながら右側を歩く寺田総馬を見る。
前会った時よりも少し髪が伸びたようだ。
くりくりとした瞳は相変わらずで、前回のことなどすっかり忘れたように笑っている。


「そうだ。あれから色々調べて、なんとなく分かったよ。持たざる国と、持ってる国との大戦だったんだな、先の戦争は。」


突然話を変えた寺田総馬についていけず、和泉は少し反応が遅れた。


「ツイ国とリアタ国とまほろば国。向こうの陣営は近代化が遅れて十分な植民地を持ってなかった。おまけに国土から得られる資源も少ない国だ。そんな国々の隣国が資源はあるわ植民地はあるわで、彼らにとってはいつ自分達が侵略されるか分かったものじゃなかったろうな。」


「あ、はぁ。確かに、そうですね。」


ようやく和泉は寺田総馬が何の話をしているのか分かった。
前に話した先の戦争のことを言っているのか。
そんなに時間は経っていないというのに、随分昔のことに思える。

和泉が考えている間にも、寺田総馬はつらつらと言葉を続ける。

このままではいずれ世界に置いていかれ、国が
滅びてしまう。
国家存亡の危機に直面した国々が取った手段は暴力的で、褒められたものではない。
けれど、その行動の根底にある意思は何よりも単純で。
生きたい、生き残りたい。

だから、先の世で自分たちの国が生き残れるよう、資源を求めた。


「調査団もまほろば国が自衛のために戦ったということは認めていた。そして、うちの国が利益と覇権主義のために戦ったということも。」


自衛のためだからと言って他国を侵略していいというわけではない。
彼らのやり方は間違っていた。

だけど、けれど。


「和泉さんが、うちの国のことを好きではないと言った気持ちが少し分かった気がした。」


寺田総馬はぼんやりと前を見たままそう言った。