「でも和泉がそんなこと聞くなんて珍しいな。なにかあったのか。」

「え?」

「高校の時は条件で結婚相手を選ぶことになんの疑いも持ってなかったじゃん。」


翔から放たれた言葉に「確かに。」と和泉は思った。

翔以外とまともに交流のなかった高校時代は自分の生き方になんの疑問も持たずに過ごしてきた。
それなのに、ここにきて自分の生き方について他人の評価を求めるなんて。
自分らしくない発言をしていたことに気付き、和泉は眉根を寄せる。

これはどう考えても寺田総馬のせいだ。
高校時代までは和泉の考えを否定する人もいなく、順調な人生を歩んでこれたのに。
あの男が和泉の今までを否定したことで揺らいでしまったのだ。
「それで幸せなのか?」の言葉で。
例えそれがほんの少しの揺らぎであっても、あの男に自分を変えられたと思うと無性に腹が立った。

和泉がむすっとした顔をしていることに気付いたのか、「どうした?」と翔が聞いてくる。


「別に、なんでもない。」

「なんでもないわけないだろー。自分の顔見てみなよ。面白いことになってるから。」



和泉は鞄のコスメポーチからユナイテッドアローズのころっとしたコンパクトミラーを取り出し自分の顔を確認する。
いたっていつも通り、だけど少し不機嫌そうな顔。
白い肌に頬の部分だけほんのりと赤みがさしている。
やはりオレンジがかったチークは自然で良い、と和泉は思った。

鏡の中の和泉はパッチリとした目で純情そうにこちらを見つめている。
いかにも世間を知らない箱入りのお嬢様といった体だ。


「どーよ?」

「相変わらず美しい顔だな、と。」

「相変わらず和泉はふてぶてしいよな。」

「自分を客観視してるだけだよ。」


使える物を上手く使うためにはその価値をしっかりと知らなければならない。
大谷と結婚するためにも、それは必要なことだ。

食後に運ばれてきた紅茶を飲む和泉に、マルゲリータを気持ちよく食べる翔。