「ミュシャですか。」

「うん。女の子はアールデコ好きかな、と思ったんだけど、どうかな?」

「結構好きですよ。」


じゃ、行こうか、と言う大谷の後について歩く。
大谷が連れてきてくれたのは美術館だった。
ミュシャ展をやっているようで、招待券があるらしい。

美術館のポスターは髪を美しく乱れさせた女性がこちらを見て微笑んでいる。
やっぱりミュシャが描くポスターは美しいな、と思った。


花も、髪も、服の皺も、模様も、これでもかと緻密に描かれているのに、全体で見ても均衡がとれた美しさを保っている。


お昼時だったからか、人はそこまで多くもなくゆっくりと見ることができた。


「大谷さんはミュシャ好きなんですか?」


展示を見終わって、美術館にあるカフェで一息ついた時、和泉はそう聞いた。
窓の外を見てアールグレイを飲んでいた大谷がこちらを向く。


「好きだよ。あそこまで緻密で繊細に描き切ったポスターには圧倒される。」


紅茶に角砂糖を一つ入れてティースプーンでかき混ぜる。

注文したスコーンが運ばれてきた。
スコーンの隣にポテッと座しているクリームとブルーベリーがなんだか愛嬌があった。


「和泉さんは好きな画家とかいるの?」

「クリムトの『接吻』は好きですね。でもそれ以外のクリムトの作品はあまり知りません。」

「そうなんだ。良い絵だよね、あれ。」


愛だ恋だを理解できない和泉だが、クリムトの接吻は好きだった。
小さな可愛い花と模様の中で抱き合う二人は現実のものではないようでいて、でも幸せそうだった。

だからか、いつか読んだ美術の本で女性の足元が危うく描かれていることから二人の関係は危ういものだと推測できる、というのを読んだ時は少しがっかりした。

まぁ、それを知った今でもあの絵は好きだし惹かれるが。