「何ですか?」

「知らない人から何で貰うんだ……」

「アナスイとかミウミウをタダでくれるんですよ。そりゃあ受け取りますよ。」

「何だその、アナスイとかは。」

「ブランドです。」


何だか和泉は流行についていけないおじさんを相手にしているような気になった。

寺田総馬はそこそこモテるという噂を聞いていたから、女の子の流行のこともある程度は知っていると思っていたが。
有名どころのブランドも知らないとは。
そういえばフェラガモも知らなかったな、この人、と和泉は思った。



「心配しなくても、これからは受け取りませんよ。大谷さんに買ってもらう予定ですから。」

「さらっと最低なことを言ったな和泉さん。」


寺田総馬がムッとした気配がする。
和泉は気にせずローズやボルドーが入ったアイシャドウを眺める。
ジルスチュアートのコスメはザ・女の子という感じがして本当に可愛い。


「条件で見ないって言ったじゃないか。」

「言ってませんよ。努力はするってだけです。」


確かに和泉は約束はしなかった。
それを寺田総馬もなんとなく思い出したのか、ぐっと言葉に詰まる。


「寺田さんが許せなくても、大谷さんは許容してくれるかもしれないじゃないですか。」

「和泉さんのその収入でしか人を見ないことをか?」


寺田総馬は信じられないような目で和泉を見つめてくるが、和泉はなんとなく直感していた。

大谷は多分、分かってくれるはずだ。
深入りはしない、経済力と、美貌の等価交換の結婚生活を。
和泉が大谷の好みかどうかは分からないが、和泉は10人いれば8人が美人と言う顔だ。
そんなに悪くないのでは、と自分では思っている。

割り切った関係を、大谷とならうまくやっていけるはずだ。
あの人の、他者に必要最低限しか情をかけないところが良いな、と思った。
孤独だけれど、サッパリした、上澄みだけを滑るような生き方。


「そんなの、変だろう。和泉さんは経済力があれば誰でもいいのか?」

「まぁ、いいですね。誰でも。愛とかの不確定なものよりはお金の方がよっぽど信用できますし。」


和泉はやけに上品に飾られた棚から一つの箱をそっと持ち上げ、寺田総馬の前にかざす。