立ち並ぶブランド店を通り過ぎながら気持ちを切り替える。
ジルスチュアートの新作をチェックしようか。
雑誌で紹介されていた可愛いリップグロスとチークがあったはずだ。

あとは、落ち着いた色のパンプスも欲しいと思っていたのだ。
グレージュとか大人っぽい色で良いかもしれない。

黙々とそんなことを考えながら歩いていれば、ふと視線を感じて顔を上げた。

じっとこちらを見つめる目があった。
チェックのダサいシャツを着た寺田総馬だった。
その目は和泉を批難するようで、なんで睨まれなきゃいけないのだと和泉も負けじと睨み返した。



デパートのファッションフロアの通路で睨み合う男女二人。
こちらを気にしながらもほかの客は何も言わずに通り過ぎていく。

周囲に遠慮したのか、話を切り出したのは寺田総馬だった。


「ちょっと話せるか?」

「用事があるので。」

「買い物か?だったら歩きながらでも話せるだろう?」


そう言うと寺田総馬は距離を詰めてどこに行く予定だ?と問いかけてきた。
なんだか今回の言い方は有無を言わせない感じだ。
和泉は眉を上げ鋭く睨みつける。

寺田総馬は今度は睨みはしてこなかったがじっと和泉を見つめてきた。
真剣な顔にくりくりとした大きな子供っぽい瞳
はなんだかアンバランスだった。

まぁいい、この男にいちいち構っている暇はない。
和泉が無言で歩き出すとそれに負けじと寺田総馬も付いてくる。


「さっき和泉さんと一緒にいたのは友達なのか?」

「いえ、私に面識はなかったですけど。」

「何か贈られているようだったが。」


スタスタと早足で歩く和泉。
寺田総馬と距離をとろうと思うのだが、いかんせん和泉より背の高い寺田総馬は難なく付いてくる。


「偶に贈ってくるんですよ。今回はちゃんと断りましたよ。」


何か文句あります?というように睨みつければ、寺田総馬はなんとも言えないような顔をしていた。
その表情が気に食わなかったが、淡いピンク色が見え和泉は一瞬でそちらに気がいった。
ようやくのジルスチュアート。

カッとレモンイエローのミュールを鳴らし足取り軽く店内へ入る。

宝石箱のようなコスメがずらっと並んでいる。
相変わらず可愛い。


「いらっしゃいませー」の声を聞きながら和泉は新色のルージュをチェックする。

少しオレンジがかった色がいいな、と思いながら見ていたら、隣に人が立った気配がする。
寺田総馬だ。
まだいたのかこいつ。
化粧品売り場は男性は入りづらいだろうにここまで来たらしい。
図太いというか、気にしないというか。


「和泉さんは、知らない人からよく物を貰うのか。」

「偶にです。」

「……受け取ってるのか?」

「前は受け取ってましたね。」


和泉がそう言えば、はぁ、と隣で寺田総馬がため息をついた。