「仮にナムト国が悲願を達成して共産主義国家になったとしても、チャナ国の傀儡政権にされると俺は思う。」
「現にボアジ国がそうなってますもんね。」
ワーッと、ガラス越しでも人々の熱狂が伝わってきた。
警官がやってきて、何人かが取っ組み合いをしている。
よくやるなぁ、と和泉は本当に、何気なくそう思った。
自分の国の代理戦争で犠牲になる人がいることを知っていた上で、今も命をかけて戦っている人がいることを分かった上で、そう思っていたのだ。
それに気付いた瞬間、なんとも言えない気持ちになる。
嫌な奴だなぁ、と、和泉は目線を下げる。
「もしも、ナムト国が俺らの国を撤退させて共産主義国家を立ち上げたとして、それから、さ。」
大谷が目線をデモの方に向けたままぼんやりとした口調で言った。
「チャナ国とボアジ国に立ち向かったとしたら、俺はきっと自分の国が恥ずかしくなると思う。」
どういう意味か、よく分からなかったが和泉は何も言わないでした。
和泉の沈黙を気を悪くしたと考えたのか、大谷は和泉の方を向いてクスリと笑いかけてきた。
「でも、俺はきっとこの国で生き続けるよ。ここ以上にいい暮らしができる場所なんて限られてるしな。」
和泉は目をパチクリさせて大谷を見た。
大谷も涼し気な目で見つめ返してくる。
やっぱり、私は彼と合うなぁ、とおもった。
「私もそう思います。」
どんなに気に食わなくても、世界で一番の先進国での暮らしに慣れてしまったら、わざわざ他の不便な国になど行きたくないのだ。
和泉がぎこちなく笑えば、大谷も柔らかな笑みを返してくれた。


