「すごいよね。」


眩しそうに喧騒を見つめながら大谷はそう呟いた。
和泉もつられてガラス越しの交差点を行き交う人の群れを見た。

道路の端から百メートルほどの列が出来ている。
人々は必死に口を動かして何かを訴えているが、残念ながら和泉の元までは声は届かない。


和泉と大谷はデパートの6階のカフェの窓際の席でコーヒーを飲んでいた。
大谷はアメリカン。
和泉はカフェモカだ。

ふと話が途切れた時に、大谷が窓の外を見下ろして先ほどの言葉を言ったのだ。
その前までどんなことを話していたのかは覚えていない。


「今じゃうちの国の一番の敵はナムト国じゃなくて国内の反戦運動家だ。」

「……最近すごい盛り上がってきましたね。」

「同盟国のラスン国が雇った傭兵が現地でかなり非道いことをしてたのが明るみになったからね。それの影響が大きいかな。」


下の人々はプラカードを持ち何かを必死で訴えている。
目に見える距離にいる。
けれど、ほんの何百メートルの差が、ガラス一枚の隔たりが、和泉にとってそれは何の関係もない世界のことに思えた。


「それに、きっと皆疲れているんだろう。ナムト国との交戦ももう泥沼化してるし、戦争の終わりが見えない。」


涼しい顔をしてコーヒーを一口飲む大谷の横顔を見つめる。


「ここで終わると思います?」

「終わらないだろうなぁ。多分うちの国はナムト国が共産主義になるのは何が何でも阻止したいはずだし。」


和泉もカフェモカを口に含み考える。
大国同士の代理戦争にされてしまったナムト国。

圧倒的不利な状況で、今生きている彼らはどんな思いでいるのだろうか。
現時点でさえナムト国は和泉の国の死者数の25倍の数の人が亡くなっている。
いくら南国の熱帯雨林でゲリラ戦が有利だからといって、大局を見たら負けは確実であろうに。

いや、戦争は死者数の多数じゃなくて、目的達成で勝敗が決まるからまだ分からないのか。
きっと、彼らの中ではまだ終わってないのだ。
まだ、負けてないのだ。