「知らなかったんですか?」

「いや、父のお下がりだったから、特に気にしてなかったが。」

「あぁ、通りで。」


カミーユフォルネは年配の男性に人気なイメージなのでまだ二十代の寺田総馬が持っているのは違和感があったのだ。



「だが、財布に十五万とは……分からんなぁ。デパートで三千円くらいで売ってるのに。」

「何年も使うものですから良いものを買って悪いことはないでしょう。」

「和泉さんの財布もブランドものなのか?」


話を振られて和泉は少し言葉に詰まる。

和泉が今使っている財布はセリーヌのスカイブルーとネイビーのバイカラーの財布だ。
八万はするであろうその財布は和泉が買ったものではない。
男から貢がれたものだ。


「セリーヌのです。」

「知らんな。」

「でしょうね。」


んー、と寺田総馬は背もたれに背を押し付けて身体を伸ばす。


「後で、大谷の連絡先メールで送っておくよ。」


ぽそっと、そう零した寺田総馬を和泉は暫し見つめる。
さっきまでは教える気はなさそうだったのに。
どういった心境の変化だろう。

何はともあれ有難いが。


「分かりました。ありがとうございます。」

「そのかわり、大谷のこと条件とかそんなので見ないでくれ。」

「はぁ。」

意外なところへの要求。
反応が遅れた。

それが気に食わなかったのか、目の前の寺田総馬の眉がつりあがる。


「大谷は友人なんだ。」


その友人は損すると思ったら即関係を切るって言ってましたけど。
とは、さすがの和泉も口にしなかった。

なんだかここまで一方通行だとある意味寺田総馬が可哀想に思えてくる。

和泉に釘をさすくらい大事にしている友人なのにその友人からは利害関係だけと言われる始末。


「努力はしますよ。」


寺田総馬は和泉の答えに不満そうだったが、和泉はこれで話は終わりだとばかりに雑誌を鞄にしまう。

だって、どうしたって和泉は変われないと思う。
条件とか、将来性とか、年収とか、そういうのを全部とっぱらって、誰かを切実に好きになるのは無理だ。
大体の人が当たり前にできることなのだろうが、それが和泉には何よりも難しいことなのだった。