確か寺田総馬の親は弁護士と会計士。
そこそこ裕福なはずだ。

なら、寺田総馬自身も一般の大学生よりは財布は潤っているだろう。

はぁ、とため息を吐き斜め上の寺田総馬の顔を見上げる。



「フェラガモの新作。」

「……は?」

「赤いパンプス。86400円。買ってくれるんだったら、話を聞いてあげないこともないですけど?」


ニッコリと、それはまるで聖母のように和泉は微笑む。
これは無理だろう。
いくら裕福な家の出だと言っても、一介の大学生に八万の出費は痛すぎるはずだ。
しかも恋人でもない女のために出せる金額ではない。

勝った、と満面の笑みを浮かべる和泉。
対する寺田総馬はムムム、と難しそうな顔をしている。

もうこの男にはこれでもかと和泉の嫌な性格を見せつけている。
この辺でそろそろ諦めてはくれないものか。
いやきっと諦めるはずだ。

和泉が心の中でガッツポーズをした瞬間。

寺田総馬がバッと顔を上げ吹っ切れたように宣言した。



「分かった。フェラガモだかカルガモだか知らんが、買ってみせよう。だから話を聞いてくれ!」



馬鹿かこいつは。

話を聞いてもらうためだけに八万以上もする有名ブランドの靴を貢ぐ奴があるか。

呆然とする和泉の前にこれでどうだ!とでも言いたげな寺田総馬。

馬鹿かこいつは。
同じことをさっきも考えた気がするがそれしか感想が浮かばない。
目の前の男は本当に天才と呼ばれた男なのだろうか。

あれか。
一分野ではめちゃくちゃ頭が良いけどトータルで見たら馬鹿ってやつか。

これ以上無いほど寺田総馬を脳内で馬鹿馬鹿言いながら、和泉は手を引かれ古本屋を出る。

近くにあった喫茶店に入り満足したように寺田総馬は笑う。



「これでようやく落ち着いて話が出来るな!」


そしてあの言葉に戻る。





「和泉さんが言ってたことの意味を考えてみたんだが、駄目だな。全然分からん。」