「指輪でも渡せば?」
「はい?」
「不安ならプロポーズでもすればいいんじゃないの?ティファニーであの子は一発でしょ」
「俺まだ二十五ですよ」
「ちょうどいい時期じゃない」
安国寺はサラサラと書類にサインをしながら言う。
まだ院を出て働き始めて一年も経っていないのに、ちょうどいいとは。
適当なことを言う人だなぁ、と思ったところ、ニヤリとした目が総馬を見た。
「早めに手に入れておけば、絆されるかもよ」
「和泉が?」
ありえない、といった思いで呟く。
安国寺はニコニコ笑いながら書類を渡してくる。
「あの子も人間なんだから」
人間だから、結婚して、一緒にいれば、総馬自身を好きになってくれるというのか。
あの、ティファニーやミウミウにしか興味がない和泉が。
想像できないなぁ、と安国寺を見送りながら思った。
料亭を出て外へ出ると、背筋を襲う寒さに身震いする。
もう冬が近い。
吐く息が白くなる季節が、もうすぐそこまで迫っている。
総馬はマフラーの位置を上げて、早足で駅へ向かった。


