「思い上がりとか、そういう類のものか、俺の考えは」

「そうですよ。総馬さんなんかただの人間なんですから。人よりちょっとだけ化学が得意なだけの、ただの一人の男です」

「まぁ、そうだな」


それ以上にもそれ以下にも思ってないよ、と総馬は笑う。

分かってるんだったら。

いや、分かっていないから、今でも、彼は。

和泉は口をつぐむ。
別れましょう。
その一言を言おうと思うが、まだ次の結婚相手の候補を見つけていない。
まだ、だ。


「つまり、だから。抱えきれないんだったら、逃げていいんです。人間が背負えるものなんてたかが知れてます」


和泉はそう繋いで逃げた。

「世の中、どう頑張ったってどうにもできないことがあるんですから」

言い訳のように呟く。

カタリと椅子を引き、寺田総馬が席を立つ。
そしてそのまま和泉の隣に立つ。

さらりと、髪を撫でられ、右のこめかみに唇を落とされる。
なだめるような仕草に、和泉はムスッとした顔になる。


「その時は、和泉を頼るよ」

「支えきれないと判断したら、総馬さんなんか見捨てますから」

「うん。和泉は、そうだよな」


それでこそ和泉だ、と。

へにゃっと、情けなく総馬は笑った。
和泉が相変わらずなのを、安心するかのような表情。


「俺はやれるだけ頑張ってみるよ」


そう言って、柔らかく頭を撫でられる。

ふと、和泉は思った。
この人も、いつかこの関係が終わるであろうことを見越しているのだろうか、と。