「皆、無事ですか!」
「姫様!!申し訳ありません、俺たちの力では、もう!!」
守護者の一人、夕凪が叫んだ。
夜の闇に紛れ、赤黒い気を放つ“モノ”。
それはもう、この世のものではなかった。
「動きを止めるのが精一杯でっ、姫様、どうか!!」
バチバチと火花が飛び散るそこへ、歩みを進める。
「竹久様、どうして」
私の声が震えているのは、きっと寒さのせいだ。
怯えじゃない。
怯えているとするならば、きっとそれはまた同胞を手にかけることへの恐れ。
「お願いです、竹久様。元の姿に戻って」
竹久様は、グルグルと獣のような唸り声を上げるばかり。
【お前が、お前が霧氷様を殺した!!】
彼の思念が、気となってこちらへぶつかってくる。
「おやめなさい」
手をかざすと、その先から銀の光が結界となって赤黒い気を防いだ。
【あんなにもお前を愛していたお方をっ、お前はいとも簡単に!!】
「お前ごときが姫様に口を利くな!!」
月草が声を荒らげる。
珍しいことだ。月草は大声をだすことさえ少ない。
【霧氷様を、霧氷様を!!】
竹久様の叫びが私の心を揺さぶる。
私だって彼を封印したくなかったなんて、彼に言っても伝わらない。
規範に沿うことしかできなかった私を、私自身憎み、悔いている。
「お止めください!!貴女は、何が望みなのですか!?」
「姫様っ、あいつの思う壺です!!」
甘えだということは分かっている。
でも、竹久様の言う通りにしたところで私の罪が拭えるとも、あるいは気が晴れるとも思っていない。
しかし、それ以外に方策があるかといえば、それは零に等しい。
【死ねぇ!!】
竹久様が花霞を手に取った。
「やめてっ、それは霧氷様の!!」
魂だ。いくら竹久様であっても、闇に塗れたままで触れば──。
【お前が、お前がああ!!】
そう恨みを込めて叫びながら花霞を握る。
霧氷様の力と同じ色──澄んだ赤に輝いていた弓が、赤黒く変わった。
花霞が途端に邪気を放ち始める。
霧氷様の思念が竹久様に乗っ取られたらしい。
──それほどに、霧氷様を超越するほどに、恨んでいるのか。
無理もない、こと。
竹久様が恨んでも仕方が無いことをしたから。
私だってまだ、彼が『世界』を焼き払ったなんて信じられないのに──。
【消え失せろおお!!】
竹久様が、私たちの本来の姿──鬼の姿になる。
ただし、もっと醜悪な形相だ。
「私が死ねば、貴方は満足するのですか?」
【勿論、あの方と同じように、だ…】
「お止めください、姫様!!」
白露の声が聞こえた方に、笑顔を向ける。
「貴方たちの手に負えないなら、私が鎮めるしか手はありません」
赤黒い光が向かってくるのを、目を瞑って受けようとした、瞬間。
「姫様っ!!」
月草が叫ぶのと、竹久様が唸るのが同時に聞こえた。
どうして、どうして、何も感じないの。
瞼を押し上げる。


