契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】



「瀬那さんは次の社内コンペを勝ち取って、みんなを見返せばいいんですよ。頑張ってください」

広瀬くんがおざなりに応援してくれる。

「うん……頑張るよ」

もうすぐ中型商業施設の照明設計の社内コンペが開かれる。設備課の照明担当者の中で争われるもので、先輩も後輩も関係なく誰でも参加できる。

事前エントリーを確認すると、私が一番下っ端だった。

でも、そんなの関係ない。社内コンペには今まで何度か参加してきたけれど、一度も採用されたことがないので、今度こそは採用されたい。

私がコンペへの気持ちを強くしていると、斜め向かいに座っている古川さんが眼鏡のブリッジをグイッと上げた。

「広瀬くんは人のフォローをしている場合じゃないですよ。キミはウワサではなく、本当に女の子と遊びすぎです」

眼鏡の奥の瞳が鋭く光る。

「わっ、わかってますよ。気をつけます」

古川さんの向かいに座っていた広瀬くんは、注意を受けて肩をすくめた。どうやら、結構女の子と遊んでいるらしい。

古川さんは笹部さんと同期で、無口なのに、たまにしゃべると鋭いことを言う。頼りになるような……だけど意見を聞くのが怖いような……そんな存在だ。

みんな、いい人なんだよね……。

私のウワサが流れ始めたときも、冗談でからかってくることはあっても、変に気を遣ってくる人も、距離を取る人もいなかった。

だから、そんな人たちのためにも……今は仕事に集中する。仕事仲間までダメにしたくない。

私は先ほどの打ち合わせ資料を開き、変更になった内容をデータ入力しようと、パソコンを開いた。

「うわっ……瀬那さん、今から仕事するんですか? あと五分で昼休憩入りますよ」

広瀬くんに呆れたように言われる。彼は、もう休憩に入る準備が万端らしく、デスクの上には何もない。

「少しでも時間があるならやっておきたくて」
「瀬那さん、ここ二、三日終電ですよね。働きすぎですよ」

広瀬くんの言う通り、最近は働きすぎかもしれない。九時から十八時の就業時間なんてあってないようなもの。ひとり暮らしの部屋は、寝に帰るためだけに借りている状態だ。

「うーん、まぁ、打ち込みは簡単だから。これくらい終わらせて食事に行くよ」

すぐ終わるから昼休みに影響はない。そう思ってキーボードを打っていると、メールの受信音が鳴った。

パソコンの画面をメールに切り替えると、差出人名を見て本文を開こうとした手が止まった。

「ん? この差出人って……」

差出人の欄には【閂 蒼一(かんぬきそういち)】と書かれていた。

……え!? 閂 蒼一って……営業総本部の閂総本部長!?

私は思わず前のめりになって、パソコンの画面に目を凝らした。

なんで閂総本部長が私にメール? しかも、件名が【私用】。一度も話したことがないのに。もしかして、誤送信かな。

あっ! ま、まさかウワサの件が耳に入って「キミは人をダメにするから、社内の人間には手を出すな」って注意されるとか!?

うわ……想像するだけでヘコむ……。

ひとりでいろいろ考えを巡らせていると、隣の広瀬くんが、お弁当が入ったコンビニの袋を持って立ち上がった。