「なんだ、蒼一さんって面白い人だったんですね」
つい遠慮もなく、声を出してクスクスと笑ってしまう。
すると、私を見ていた蒼一さんが、向かいの席から手を伸ばしてきた。
「葉月、そんな顔されると……身体関係ナシでいられない」
大きくて熱い手の平が頬をなぞり、長い指が耳たぶを掠める。
「えっ……」
ドキリと胸が大きく跳ね上がる。蒼一さんと見つめ合うと、一瞬周りの音が聞こえなくなった。
「え、えっと……そ、それも勉強されたんですか?」
「……どうだろうね」
クスリと笑うと、蒼一さんはスッと手を引いた。それからワインをひと口飲むと、色っぽい表情から、キリリと真面目な顔になる。
「ああ、そうだ。ヤンデレっていうのも調べたから、今度披露しよう」
「い……いいです、披露しなくて! 勉強もやめたほうがいいですよ……!」
蒼一さんは普通にしているだけで充分なのに……。努力の仕方が斜め上だ。
慌てて止めるけれど、蒼一さんは首を横に振った。
「勉強をやめるのは無理だな」
「ど、どうしてですか?」
もう仮に付き合うことも決めたのに、これ以上何を勉強するというのか。
たずねると、蒼一さんは妖艶に口角を上げる。瞳に天井から降り注ぐ幻想的な明かりが映り込み、彼の表情がより一層色っぽくなった。
「……何もかも、葉月の気を引かなくちゃ始まらないから」
「っ、わ、私の気を……? なんでそんなに本気なんですか?」
仮に付き合う理由って、本当に社長問題だけなの?
「真面目な性格なんだ」
彼はわざとらしいほど、にっこりと笑った。
「そっ……そう、ですか……」
蒼一さん、何か企んでるのかな? それとも、本当に真面目なだけ?
つい笑顔の裏を勘ぐってしまう。
「や、やっぱり……」
「やめる、なんて言わないよね。俺を助けると思って。頼むよ、葉月」
すかさず“助ける”“頼む”で畳み込まれてしまった。
「う……は、はい……」
仮だし、ご飯に行く相手ができたと思えばいいか。けど……本当に蒼一さんをダメにできるかな?
不安になりつつも、こうして私は総本部長と秘密の関係を始めることにした。


