契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】



「期限か……そうだな、長くても社長が決まるまでだ。もちろん会社にも秘密にする。閂建設は社内恋愛を禁止していないが……キミは〝しない〟と公言しているからね」

総本部長が少しだけ目を伏せ、寂しげに言う。

……どうして、そんな風に言うんだろう。

切なげな表情に、胸がキュッと締めつけられた。

「わ……わかりました……お付き合い、します……」

『付き合うとダメになる』なんて言われている私でも、考え方や求められ方によってはできることってあるんだ。
もう恋愛自体トラウマになりそうだったけど、ちょっと安心したかも。……って、総本部長とは恋愛じゃないけど。

たどたどしく返事をすると、頭を下げた。

「っ……! ありがとう」

総本部長の顔が電気のスイッチを入れたみたいに、パッと明るくなる。

「どうなるかと思ったけど……よかった、キミに了承してもらえて」

ホッと胸を撫で下ろすと、ワインを口に運ぶ。一気に飲み干すと、フウッと息を吐き出していた。

さっきまで品のある仕草で、会話や食事をしていたのに……。

あまりにも豪快な飲みっぷりに私が目を丸くしていると、ワインのおかわりを注文した総本部長が、気まずそうな顔をした。

「悪い……緊張していたから、喉がカラカラで……」

緊張かぁ……。総本部長みたいな御曹司も、私みたいな庶民に頼み事をするときに緊張するんだ。

「総本部長って……よくわからない性格してますね」

呆気にとられた私が呟くと、総本部長は首を傾げた。

「どういうこと?」
「初めは、紳士的で完璧な人だと思っていたんです。なのに、昼休みは強引だったり俺様だったりして変でした。でも、今は……ちょっと身近に感じます」

キリリと引きしまった顔が、パッと明るくなったり、ホッとしたり……クルクル変わっている。社長候補で雲の上の人だと感じていたのに、普通の人なんだと思った。

それに、私を求めてくれた。

「……って、すみません。総本部長に対して失礼でしたね」

慌てて謝ると、総本部長はニッコリ微笑みを浮かべる。

「いや、肩書きなんて関係ない。むしろ嬉しいよ、キミに身近に感じてもらえて。それに……キミに言われる言葉なら、なんでも嬉しいから」
「えっと……」

もう仮の恋人としてスタートしてるのかな……?

あまりにも甘い言葉に、私は照れくさくなってうつむいた。……顔が熱い。

「あ、ついでに総本部長じゃなくて、蒼一って呼んでもらえると、もっと嬉しいんだけど。あと、敬語もやめようか」
「そ、蒼一……は無理ですけど、蒼一さんで。敬語は使わせてください」

いきなり総本部長にタメ口で話そうと思っても、できるものじゃない。

「私のことは葉月でかまいませんので」
「うん……葉月、かぁ……」

噛みしめるように艶っぽい声で名前を呟かれる。

なんだかくすぐったい。

「昼休みは……実は、どうやったら葉月を食事に誘い出すことができるのか考えて、ネットで勉強したことを試したんだ」
「べ、勉強?」
「ああ。女性は強引な誘いに弱いとか、俺様が人気だとか、ツンデレにキュンとくるとか……いろんなネタに目を通した。それで頑張ってみたけど、結局葉月にはストレートにお願いするほうがよかったみたいだな」

蒼一さんは演技していた自分を思い出したのか、少し気まずそうに笑った。

じゃあ、昼休みのぎこちない誘い方は総本部長……改め蒼一さんが女心を学んだ結果だったんだ。……いろいろ、間違っている気もするけど。

普通にしていれば紳士的で完璧な人なのに、変な方向に頑張っている。女性社員に人気で、男性社員からの信頼も厚く、役員からも社長になってもらいたいと言われているほどの人が……。

考えているとおかしくなってきて、フッと噴き出してしまった。