じゃあ、ね。

 そう言って、電話を切った。

 同じタイミングで涙が落ちる。あたしはそれをそのままにしてふき取りもせずに、ぼんやりと月を眺める。

 細くて細くて、今にも雲に突き刺さりそうなあの月。キラキラと光って暗い夜の空に浮かんでいる。

 彼は齧ってみたいって言っていた。

 ・・・そう、あたしも、齧ってみたい。

 バリバリと噛み砕けば、この悲しみだってなくなってしまうだろう、そんな気がした。

 涙がひとつぶ、ワイングラスに落ちて表面を揺らす。あたしはグラスを手に取って、涙のとけた赤い液体をぐぐっと飲み干した。


 電話のわけを、聞かないでくれて、ありがとう。

 聞かれてしまったら・・・言ってしまったかもしれない。


 『あなたが好きです。だから、声が聞きたくて』。





・「ミッドナイトコール」終わり。