夏の嵐と笑わない向日葵



「金魚達も、きっと生きるために必死なんだよね」


あたしは、金魚達を見つめながらそう呟く。
そして、ゆっくりと網を水につけた。


「おいで、大丈夫だよ…」


あたしは、金魚に声をかけながら、そっと網を近づける。
すると、不思議な事に、金魚達が集まってきた。



「おい、まじか……向日葵んとこに、金魚集まってんじゃん!!」


嵐君は驚いたように金魚とあたしを見つめた。


「お嬢ちゃん、すげーな!」

「金魚が集まっとるよ!見てみて母ちゃん!」


店員のお兄さんや、子供までがあたし達の周りに集まってくる。


「向日葵、掬わねーのか?」


あたしに集まる金魚達を見つめていたら、なんだか掬うのが可哀想になってしまった。


「やっぱり、いい……」


あたしは、網を店員さんに返して、バックから出した手拭いで手を拭いた。



「なんだか、可哀想になっちゃった」

「そうか、向日葵は優しいよな」


嵐君は、あたしの前髪を優しく撫でた。
そんな嵐君にあたしは笑みを返す。


「見ているだけで、十分」


すごく、綺麗なオレンジ色。
こんな素敵な光景を見せてくれた金魚達にお礼を言わなきゃ。



「ありがとう、金魚さん」


あたしはそう言って嵐君の浴衣の袖を引く。