「嵐く……」
「あのよ……」
名前を呼びかけたあたしは、それ以上言葉を繋げなかった。
あたしの顔を、嵐君の胸に押しつけるように抱き締められていたからだ。
「俺の事、あんまり煽んな。出ないと、今すぐ……」
まるで、切羽詰まったような声に、あたしは何も言えなくなる。心臓が、口から飛び出そうだった。
今すぐ、なんだと言うのだろう。
早く、その続きを聞きたいような、聞くのが怖いような、不思議な気持ちだ。
「あーーっ!!」
すると、嵐君は突然叫び出す。
「わ、悪い。い、行こーぜ!」
そしてすぐにあたしから離れると、立ち上がって、あたしに手を差し伸べた。
「え、う、うん…」
あたしも動揺しながら、その手をとり立ち上がる。
浴衣の時からそうだ、あたし達はなんだかいつものように話せていない。
変な、むず痒い空気になってしまう。
そんな気まずい空気のままだったけれど、神社までの道のりを歩く間ずっと、手は繋いだままだった。


