ミーンミンミンミン
遠くで、蝉の鳴き声が聞こえる。
あたし達は、それっきり何も話せなくなってしまった。
シュッ、シュッ…。
あたしは、嵐君の腰ひもを結びながら、浴衣を着せる事だけを考える。
次は帯、次は帯っ……。
あぁ、なんでこんな緊張するんだろう。
紐を持つ手が震えた。
「えっと……」
嵐君も何かを話そうとして、どもる。
あたしは、顔を上げなかった。今、嵐君にこんな赤い顔を見せられなかったから。
だから、お互いどんな顔をしているのかが分からなかった。
「あとは、帯だから…」
「お、おう…」
あたしは嵐君の後ろに回って、帯をつける。
そして、着付けは微妙な雰囲気で終了した。
「鏡、見てみて」
あたしは嵐君を部屋にある立ち鏡の前に立たせる。
すると、嵐君は「おぉ!」っと感激の声を上げた。
嵐君は、それは驚くくらいに浴衣姿がカッコ良かった。
元々、イケメンではあったけど、こんなに似合うものなんだ。
金髪でも、浴衣…似合ってるなぁ。
「どう?向日葵。俺、ちゃんと似合ってっか??」
すると、嵐君が鏡からあたしへと体の向きを変える。
「うん、すごく似合ってる」
そう、まるで元々嵐君の浴衣だったんじゃないかって思うくらいに。


