夏の嵐と笑わない向日葵



「これだよ、嵐君」

「おー、良い色だな」


嵐君はあたしから浴衣を受けとる。


「そうだ、着方、今教えてくれよ」

「今?」

「当日は、向日葵だって準備があんだろ、だからさ」


そう言って嵐君はTシャツの上から、浴衣を羽織る。そして、早くと言わんばかりにあたしを見つめた。


「良いけど、明日でもいいんだよ?」


あたしが先に準備をしておけばいいだけの話だ。


「俺、祭りに行くぎりぎりまで、向日葵の浴衣姿を楽しみに待っててーの!」


嵐君の不思議なこだわりに、首を傾げながら、嵐君の前に立ち、浴衣を左前みごろで合わせる。


「向日葵、ぜってー俺の言ってる意味分かってねーだろ」


嵐君はあたしの顔にズイッと自身の顔を近づける。その顔は、呆れたような、困ったような顔だ。


な、なんで呆れられなきゃならないの。
あたし、何か変な事言ったかな??


「鈍いよな、向日葵」


そして、「はぁ」とため息をつく嵐君にますます首を傾げる。


一体何だっていうの??あたしがギリギリで嵐君に浴衣姿を見せる意味がわからない。


「デート、みたいだろーが…」

「はい?」


嵐君は、照れ臭そうにボソッとそう言った。


「あーチクショウ。俺、こんな照れ屋キャラじゃねーのに!!」

「あっ……デートって……っ!!」


デートみたいだから、そうして欲しかったの??
やだ、嵐君何言ってるんだろう。


って、どうしてあたしは……こんなに動揺してるの?


まただ、胸がドキドキして、うるさい。この動悸も、カァーッと熱くなる顔の火照りも、止め方が分からない。