「俺は、そうだなー…」
嵐君はそう言って、コンクリートの道と砂浜の間にある小さな縁に腰かける。
あたしも、それに合わせるように、人1人分の空間を開けて座った。
「中学ではサッカーやってたんだけど、高校ではバイトする為に帰宅部でさ」
嵐君は胡座を組んでその膝に肘をつき、その手に顎を乗せて海を見つめていた。
「出来る限り自分の事は自分で出来るようになって、後は…モテたりしたら、一人前の男になれる気がしたんだよ。だから、ガソリンスタンドでバイト始めて、髪も金髪に染めて、ピアスの穴も開けた」
「なんでそんなに一人前の男になりたかったの?」
「それは……」
そう言いかけて、嵐君はあたしに視線を向ける。
いつものおちゃらけたのとは違う、真剣な瞳と目があった。
ザザーッと波の音が遠くで聞こえる。
それを上回るドクンッ、ドクンッという胸の音がうるさいくらいに聞こえた。
「ある女の子の為だ」
「!?」
まるで、あたしに言っているかのような錯覚に陥る。
そんな、それがあたしであるはずは無いのに…。
「その子の為……つうか、その子に、俺を好きになってほしかったからだな」
「そう……なんだ…」
そっか、嵐君には、東京に大切な女の子がいるんだ。
それは、外見も生活を変えてまで、真剣に想う人だって事。そう…嵐君の好きな人って事になる。


