夏の嵐と笑わない向日葵



アイスを食べながら、あたしと嵐君は、家までの道のりを歩く。

今日の最高気温は37℃を上回るらしい。
太陽の光は、あたし達に容赦なく降り注ぐ。



「ローストビーフ味って、どんな味?」

「食ってみる?これは当たりだな」



嵐君はあたしの口に、食べかけのアイスを突っ込む。


これ、嵐君の食べかけ……。
それに少し恥ずかしくなりながらも、アイスを噛んだ。

その瞬間に広がる違和感。

なんだか、酸っぱいような、アイスなのに胡椒が効いた変な味がした。


「変な味がする」

「え、うまいだろ!?」


そんな他愛ない話をしながら、帰路を辿たどる。


家までは、この海沿いの道を通る。
潮風に混ざって、カモメの鳴き声が聞こえる。


「嵐君は…この海の向こうから来たんだよね」


あたしは、ふと足を止めて、海を見つめながらそう尋ねた。そんなあたしに気づいて、嵐君はあたしを振り返る。


「まぁ、そーなるな。つっても、数時間程度の距離だけどな」


「東京、あたしも中1まではいたんだけど…あんまり、記憶が無いな。こっちでの生活の方が短いのに…」



両親は共働きだったせいか、あまりどこかへ出掛けたりは出来なかった。


だから、おばあちゃんが教えてくれる向日葵の育て方、お裁縫の仕方、料理の作り方…。


全てが新しい発見で、おばあちゃんといた時間は、すごくかけがえの無いものだった。


あたしの心を守ってくれていた人。



「東京では、どんな風に過ごしてたの?」


ふと、嵐君が東京でどんな風に生活していたのかが気になった。あたしが知らない嵐君を、知りたいと思ったのかもしれない。