夏の嵐と笑わない向日葵



「やべー!旨すぎだろ!!元気になったわー!」

「……そう」


それは良かったけど、元気になりすぎじゃない??
おばあちゃんの万能薬、恐るべし。


腕を伸ばしたり立ってみたりしはじめる嵐君を、あたしは呆然と見つめる。



「そうだ!雅子ばあちゃんに、線香あげていいか?」

「あ……うん」


あたしは、居間の隣の部屋へ、嵐君を案内する。

チーン

嵐君は、仏壇の前に正座して、鐘を鳴らし、線香をあげた。あたしは、煙がゆらゆらと上がるのを見つめる。


「久しぶり、雅子ばあちゃん」


嵐君は、笑顔でおばあちゃんの遺影に話しかけた。


嵐君とおばあちゃんが知り合いだったのは、本当みたい。
でも、そんな話聞いた事あったかな?


不思議に思いながらも、食事の準備をする為傍を離れる。そしてしばらくすると嵐君が戻ってきた。


「って、冷やし中華じゃん!!」


居間に入ってきてそうそう、嵐君は、机に並べられた冷やし中華を見て感動的な声を上げる。


「あ……食べられるなら、どうぞ」

「食べる!!うまそー!」


さっきまで死んでいたのが嘘みたいに冷やし中華を前に手を合わせる。


「向日葵ちゃん、早く食べてーんだけど」

「え、うん…どうぞ?」


立ち尽くすあたしを、嵐君は待ちかねたように振り返る。


「何言ってんだよ、向日葵ちゃんも早く座って食おうぜって、言ってんの!」

「……あたしも?」

「そーだよ、早く!」


作ったのはあたしなのに、なぜか嵐君に促されて席につく。


「そんじゃあ、いただきます!!」

「い、いただきます……」


こうして、奇妙な朝食がスタートする。


ま、待って。
誰かこの状況を説明してほしい。



あたしはどうして、この人の熱中症の世話をして、一緒にご飯を食べてるんだっけ。


机向かいに座る嵐君は、ガツガツと冷やし中華を食べる。それはもう、作ったかいがあるほどに。



こうして、誰かとご飯を食べたのはいつぶりだろう…。
最後にこうしてご飯を食べたのは…。


あぁ、3年くらい前かな。
おばあちゃんと食べたのが、最後だったっけ…。


ポタリ……。


「向日葵って、料理上手いんだな!俺、めっちゃ感動…し…て…」


笑顔で話しかけてくる嵐君の手が止まった。
そして、あたしを見つめて目を見開いている。