夏の嵐と笑わない向日葵



「あの時はまだ若くて、モノと恋愛してるんじゃないんだよ!とか、言って彼女を傷つけたんだ」


「その彼女は、今は……」


「いや、もう何年も前の話だから。でも、もっとその不安を理解してあげられたらって思ったら、後悔したね」



田中さんは、何年も前の話だからって言ったけど、今も、その人を想っているような気がする。


気のせいかもしれないけど……。


「だからかな、たとえモノでも、いいんだ。それがあるだけで安心できて、離れていても愛を確認できるのなら」


「あ……」


そう、あたしの嵐君のように、心を繋いでくれる事もある。


「だから、俺たちみたいに、離れてしまわないように、心を繋げる手助けをしたかった」


田中さんは空からあたしに視線を戻し、寂しげに笑った。


いつもの爽やかな笑顔だから、辛い事なんて何にも知らずに生きてきたのかと思ってた。


それが、こんな切ない恋をしていたなんて……。


辛さを知らない人なんていないんだ。
人は誰しも、大小に関わらず、傷をかかえている。