「いやさ、昔付き合ってた彼女に、指輪が欲しいって言われたんだ」
田中さんは遠い目で空を見上げている。
それが、どこか切なかった。
「俺は、そんな指輪なんてモノに特別な考えはなかったけど、その彼女にとっては、心を繋ぐ唯一の保険なんだって言うんだ」
心を繋ぐ保険??
その言葉の意味が分からなくて、あたしは首を傾げる。
「今まで、裏切られる恋愛ばっかしてたからかな、モノに、形になっている愛情しか信じられなかったんだ」
「そうだったんですね……」
そういう意味ね。
目に見えるものしか信じられない。だって、気持ちは不明瞭だから。
測る事の出来ないモノほど、不確かなモノはないから。


