夏の嵐と笑わない向日葵



「嵐君は……夏休みの間だけこっちにいて、今は東京に帰ってるんです」


あたしは右手の指輪の向日葵の彫刻を左手の人指し指でなぞる。


「そうか……遠距離恋愛なんだね」


そう言って、田中さんがあたしに椅子を引いてくれる。
椅子に座ると、田中さんはあたしの向かいに座った。



「はい…寂しいけど、でも、これを見ると、嵐君といつでも心が繋がってるのを感じるんです」



そして、何度も自覚する。
自分がどれだけ嵐君に守られてるのかを。


「そうか……それが聞けて、俺も嬉しい」

「え……?」


田中さんは、机に肘をついて、ガラスウィンドーから見える夕焼け空を見上げた。


「この工房は、大切な人との心と心を繋ぐ為につくったんだ」



それは、あたしが花に携わる仕事をしたい理由と少し似ていた。




「あ、田中つなぐ工房のつなぐって……」

「そう、心を繋ぐって意味なんだ」


そうだったんだ……。


毎日、ただなんとなく通りすぎていたこの場所に、こんな意味があるとは思ってなかった。