レーザービームの王子様

幸い、まわりの客たちもこちらの様子なんて気にも留めていなかったようだ。

そりゃそうか、みんな自分たちのデートに夢中だもんね。


“普通の連れ”程度には距離ができた久我さんを、私はぎっと睨みつける。



「今日のこれって、こないだの介抱の謝罪とお礼って言ってませんでしたっけ?」

「そうだよ。だから恋愛経験値が少ないすみれに、デートっぽいこといろいろ試させてあげてるじゃん」

「余計なお世話です……!」



こんなの、大げさに言えば『恩を仇で返された』って感じじゃない??!

肩を怒らせて歩き出した私の後を、久我さんが笑いを堪えながらついてくる。


結局……こないだの雨の日のことも、うまくはぐらかされた気がするし。

本当はもっと、目の前のことに落ち着いて対処したいのに。なんか、思うようにいかない。

久我さんの前だと、なんでか私いっつもこうだ。



「……久我さんなんて、明日の試合ゴロをうまく捌けなくてグラブで弾けばいい」

「うわっ出た、すみれの呪いの言葉。それ効果抜群みたいだからやめてほんと……こないだのエラーはマジでへこんだんだからな……」



いつかの試合で自分がしたミスを思い出したのか、隣りに並んだ彼が引きつった表情を見せる。

本気で嫌がっているその様子にちょっとだけ胸がすっとして、つい吹き出してしまった。



「ふっ。自業自得です」

「ほんと勘弁してくれ……俺、チキンハートだから。エラーかました日なかなか寝付けなかったから」

「デリケートすぎです久我さん」



ふはっと、思いっきり顔を崩して笑った後、我に返って隣りをうかがう。

予想通り久我さんは、意地悪に口角を上げて私のことを見つめていた。


──ああもう、悔しい。いくらこっちが機嫌を悪くしてもどこ吹く風で、むしろ彼の手のひらで転がされているような気がするのが、めちゃくちゃ悔しい。

……悔しいし、おもしろくない、のに。



「そう俺、デリケートだから。すみれももう少し俺にやさしくしてくれないと」

「……何言ってるんですか、そんなデカい図体して。というか久我さんたしか今得点圏打率4割近いですよね? 鉄の心臓じゃないですか」

「すみれ……俺の得点圏打率まで頭に入ってるとかどんだけ野球マニア? というか実は俺マニア?」

「そのポジティブ思考はどこから来るんですか??!」



それでも『早く家に帰りたい』とは思わない、なんて。

……なんで、かなあ。