「ほんと、すみれは野球好きなんだな」
「好きですよ。シャークスファンの祖父と、それから球児だったお兄ちゃんの影響です」
「……お兄ちゃん?」
聞き返され、私はこくりとうなずいた。
「はい。亡くなった私の兄は、小学生のときから野球をやってて……私はよく、試合を観に行ってました。すごく上手かったんですよ」
「──、」
「あ、ごめんなさい、お気遣いは無用です。もう10年も前の話ですから」
私から話したことなのに気を遣わせたくなくて、彼が何か言う前にぴっと右手のひらを立ててみせる。
久我さんは「そっか」と小さくつぶやき、ゆるく笑った。
その反応に安心したのも束の間──なぜか、水槽のふちを掴む私を囲むような形で、後ろから私の手の外側に両手をつく。
「ッ、」
「……こないだ、ほんとごめん。酒に酔って迷惑かけるとか、最悪だよな」
すぐ耳元で、久我さんの低い声がする。
私は顔をまともに上げられず、ただふるふると首を横に振った。
「だい、じょうぶですよ。あの……ちゃんと、謝ってもらってるし」
「そりゃ謝るよ。よりによって、すみれに迷惑かけたなんて」
……『よりによって』、って。
なんとなく彼の言葉が引っかかり、そっと、背後を振り返ってみる。
久我さんはクラゲの泳ぐ水槽に目を向けたまま、嘲笑のような呆れのような、そんな感情がうかがえる力のない瞳をしていた。
「好きですよ。シャークスファンの祖父と、それから球児だったお兄ちゃんの影響です」
「……お兄ちゃん?」
聞き返され、私はこくりとうなずいた。
「はい。亡くなった私の兄は、小学生のときから野球をやってて……私はよく、試合を観に行ってました。すごく上手かったんですよ」
「──、」
「あ、ごめんなさい、お気遣いは無用です。もう10年も前の話ですから」
私から話したことなのに気を遣わせたくなくて、彼が何か言う前にぴっと右手のひらを立ててみせる。
久我さんは「そっか」と小さくつぶやき、ゆるく笑った。
その反応に安心したのも束の間──なぜか、水槽のふちを掴む私を囲むような形で、後ろから私の手の外側に両手をつく。
「ッ、」
「……こないだ、ほんとごめん。酒に酔って迷惑かけるとか、最悪だよな」
すぐ耳元で、久我さんの低い声がする。
私は顔をまともに上げられず、ただふるふると首を横に振った。
「だい、じょうぶですよ。あの……ちゃんと、謝ってもらってるし」
「そりゃ謝るよ。よりによって、すみれに迷惑かけたなんて」
……『よりによって』、って。
なんとなく彼の言葉が引っかかり、そっと、背後を振り返ってみる。
久我さんはクラゲの泳ぐ水槽に目を向けたまま、嘲笑のような呆れのような、そんな感情がうかがえる力のない瞳をしていた。



