レーザービームの王子様

私が【むつみ屋】に到着したとき、ちょうど雨はやんでいた。

バッグにしまっておける折りたたみ傘にしておいて正解だ。ドライバーに運賃を支払い、濡れたアスファルトへと足を踏み出す。

タクシー代は後で久我さんに請求してやる、とちゃっかり決意しつつ、私は見慣れた引き戸を開けた。



「ああすみれちゃん! いらっしゃい」

「……こんばんは」



私の姿を見るなり、カウンターのむっちゃんがほっとしたような表情で声をかけてきた。

むうっとくちびるをとがらせながらも、賑やかな店内を進む。



「ごめんねーすみれちゃん。他に頼める人もいないから困っちゃって」



そう話す彼の目の前には、カウンター席に思いっきり突っ伏すやたら体格のいい人物がいて。

東都ドームでの試合観戦以来、約10日ぶりに見る姿。……まさか、こんな形でまた会うことになるとは。

傍らにたどり着いた私は、思わず深くため息を吐いた。



「もー……こんなこと今回限りだからね?」

「あはは、恩にきます」

「笑いごとじゃない……」



つぶやきながら、私たちの会話にもまったく反応を見せない久我さんにちらりと視線を向ける。

こじんまりした【むつみ屋】の店内。久我さんはただでさえでかくてスペースとるってのにカウンターのど真ん中を占拠するなんて、とんだ暴挙だ。

小上がり席の客に呼ばれ、慌ただしくむっちゃんがカウンターを出ていく。

私はやれやれと鼻から息を吐き、眠りこける久我さんと目線を合わせるため中腰になった。