レーザービームの王子様

実を言うと──10年前、お兄ちゃんのお葬式があった前後数日間の記憶が、私の中で曖昧だ。

お葬式の最中、私はひどい高熱で倒れたらしい。その後2、3日間寝込み続け、体調が良くなったときには少し前の記憶があやふやになっていた。

お兄ちゃんが事故にあって、病院のベッドの上に冷たく横たわっていた姿は覚えている。

けれどどうしても、彼とのお別れの式があったあたりのことが、もやがかかったようにしか思い出せないのだ。

だからさっきお父さんが言った「葬式の日もひどい雨だった」、という話も、いまいちピンと来ていない。


医者によると、突然兄を失ったショックと高熱のダメージで、記憶が抜け落ちてしまったんじゃないかという話だったけれど。

こんな私を、お兄ちゃんは薄情だと思うだろうか。

でもきっと、たぶん……『すみれは仕方ない子だなあ』って、やさしいあの人は笑ってくれる気がするんだ。



「じゃあ、すみれ。私たちは駅に行くから」

「家まで気を付けて帰るんだぞ。寄り道しないでまっすぐ帰るんだぞ」

「……もー、」



心配症なお父さんの言葉に、苦笑したそのとき。



『──……あなたが───ってよ……っ!!』



ふと頭の中に、今よりまだ少しだけ幼いような、自分の悲痛な声が響いた。


今朝みた夢。どうしてか今、断片的に思い出した。

激しく降る雨の音。線香のにおい。

……あれは、お兄ちゃんのお葬式だった?



「……ねぇ。お父さん、お母さん」



1度は歩き出したふたりが、こちらの呼びかけに振り返る。

私は口を開きかけ、でもすぐに、思い直して首を横に振った。



「ううん。……ごめん、なんでもない」

「そう?」

「じゃあまたな、すみれ」



今度こそ、両親は駅に向かって歩いて行く。

片手を振って見送りながら、私は小さく息を吐いた。


あんな夢をみたところで──私は何を、訊こうというんだろう。

そもそもあの夢が、忘れてしまった自分の過去の出来事とも、限らないのに。


明日も変わらず仕事だ。天気が悪いせいか身体がだるい気がするし、早く家に帰ってゆっくりしよう。

そう考えて少しの疑問を振り切り、私も雨の中を歩き出した。