と、そこでまた別の人物の声が割り込んで来る。



「ダメですよ深町さん小柳さん。あの女神は俺のものです」



どこから聞きつけたのか、デスク横を通りかかったイケメン先輩・印南(いなみ)さんに真顔でざっくり釘を刺された。

いや、『ダメ』って。別に取って食おうなんて話はしてませんでしたけどね。

件の女神・柴咲さんと付き合っているらしいこの方も、大概変な人だ。普通女子にまで牽制するか……?

印南さんも素晴らしいお顔の持ち主だけど、これだけ変わった人だと彼女である柴咲さんは大変だと思う。



「はあああん、あんなイケメンにあれだけ愛されてて、柴咲さんめっちゃうらやましいな~~」

「……え、そうなの?」



去って行くスーツ姿の背中をうっとり眺めながら後輩が発したセリフに、素で驚いた。

えええ、もしかしてこれが一般的な女子の反応なの……? 全然うらやましくない。私には理解できない。



「あたしの見立てでは、柴咲さんは来年には寿退社ですね。あたしもイケメンに縛られたーい! 永久就職したーい!」

「へー……じゃあとりあえず、柴咲さんが抜けた穴をバッチリ埋められるように小柳さんがんばって仕事覚えないと」

「え~~あたしには無理ですよぉ~~」

「………」



えっと、うん。

嫌いじゃない。別にこのノリ嫌いじゃないんだけど、たまに本気でイラッとする。

ありがとうございましたぁ、と最後まで間延びした口調の後輩が自分のデスクに戻るのを見送り、私はこっそりため息を吐いた。