レーザービームの王子様

「すみれさ、今日尾形に何か言われた?」

「……? なにか?」

「んー、なんていうか……俺のこと、とか」



俺の言葉に、こてんと首をかしげて彼女が考える素振りをする。

ややあって、「ああ、」と小さくつぶやいた。



「えっと……日本シリーズのときの、話で。尚人くんの最後の打席のこと、イジられたやつ……?」

「………」



あの男、ほんと……嫌なヤツだな……。

ハンドルに両手でもたれてうなだれる。自分でも思っていた以上に、傷は深いみたいだ。


あの試合の後最初にすみれに会ったとき、彼女は俺に「よくがんばりました」と言ってくれた。

それで充分だった。それだけで俺は、また新たな気持ちで『次』を見据えることができたと思っていたのに。



「……で? すみれは、アイツになんて返したんだ?」



こわいと思いつつも訊ねる。すみれは目元をこすりながら、相変わらず眠たそうに答えた。



「んー……『ダサかったな』って、総司が言うから。『私にとって久我選手は日本一どころか世界一かっこいいから問題ない』って言っといた」

「……すみれ、それは……それはかわいそうだろ……」

「なにが?」



尾形がその話題を出した時点で、すみれは普段以上に酔っていたのだろう。でなきゃ、そんなデレた返しをしてくれるはずない。

撃沈したそのときの尾形に同情する。一応、するけど──……けれどもそれ以上に、彼女の言葉を素直にうれしく思う気持ちは止められない。



「ありがとな、すみれ。俺にとってすみれも、世界で一番かわいい」



言いながら、彼女のひたいにくちびるを落とす。すみれはくすぐったそうに笑って、ぎゅっと俺の首に抱きついてきた。



「あったかい、尚人くん。それに、いいにおいする」

「あー、そりゃ風呂入ったから……」



そこまで言って、ふと考える。なんか前にも、こんな会話したことあるような……?

けどまあ、いいや。とりあえず今夜は、満足いくまで彼女のやわらかい身体を堪能させてもらおうと邪なことをこっそり思う。


ちゃんと歩けるかはあやしかったから、またすみれを抱き抱えてマンション内の自分の部屋を目指す。めずらしくおとなしくしているあたり、彼女はまだ相当眠いらしい。

まあ、ベッドに着いても寝かせてやらないけど。でもそれは、かわいいことを言った彼女が悪い。



「でもね、尚人くん……最後のスライダー、あんなハッキリしたボール球を振っちゃったのは、いただけないと思う……」

「……すみませんでした」



きみがすき。

きみがすき。


今日も俺は、……たぶんこの先もずっと、こんな彼女に恋をし続けるのだ。










/END
2016/10/07