わけがわからない。というか今気付いたけど、実は結構コイツも酔ってんな?

前一緒に飲んだときはまったく変わり映えなかったくせに、今の尾形は若干顔が赤いし目も据わっている。揃いも揃ってなんなんだよ一体……。



「ったくよー、日シリ最終戦のあのいいトコで空振り三振するようなダッサい男のくせによー」

「あ? ……はあああ??!」

「尚人くーん、いい加減うるさいよー」



舌打ち混じりの尾形のつぶやきに一瞬遅れて反応すると、今度こそ名指しで注意された。

いやいやでも、今のは尾形が悪い。まだカサブタにもなってない俺の心の傷を全力で抉って来たこの男のせいだ。


つい先日行われたばかりの日本シリーズでの最終戦。1点ビハインドで迎えた最後の打席。

一打出れば同点、もしくは逆転だって有り得たあの場面でその一本を出せなかった自分は、やっぱりまだまだ未熟者だということなのだ。

本当に“持ってる人”は、ああいうシーンで必ず結果を出すもの。だけど自分は、それをできなかった。

プロ野球日本一の座を勝ち取った相手チームの選手たちがグラウンドの真ん中で歓喜に沸くのをベンチから呆然と見つめながら、来シーズンでのリベンジを固く胸に誓ったのは記憶に新しい。



「ほらほら尚人くん、泥酔した彼女いつまで放置してんの? さっさと持って帰ってくれる?」



睨み合う俺と尾形の間に青司さんが割って入る。

尾形が嫌な奴なのは違いないが、たしかに今はそれどころじゃない。深く息を吐いて大将に向き直る。



「すみません青司さん。お代は……」

「いーよいーよ、今度来たとき本人に請求しとくから」

「……よろしくお願いします」



あっけらかんと笑う彼に小さく頭を下げる。ここで俺が払ったって別に構わないんだけど、それをすると後ですみれにものすごく怒られるのだ。間違いなく。