嫌いだ、こんな自分。……弱い、自分。

俺が野球をすることを良く思わない父親にすら、うまく反抗できない。こんな、情けない自分。


父さんは、将来俺に会社を継がせるため勉強を最優先にしろと言う。きっとそのうち、本気で野球をやめさせられることになるだろう。

それならいっそ、今やめた方がいいのかな。自分の無力さに打ちのめされてる今──野球を、手放した方がいいのかな。


生ぬるい風が、濡れた頬をかすめてスースーする。一際強い風が吹いたその瞬間、目の前にどこからか飛んで来た麦わら帽子が着地した。

……ちょっと、驚いた。少し遅れて、パタパタとせわしない足音が聞こえてくる。



「あ、そこの人っ、帽子つかまえて!」

「えっ、あ……っ」



再び吹いた風にさらわれてしまう前に、麦わら帽子のつばを掴んだ。

足音がさらに近付く。反射的に立ち上がったものの、今の今まで自分がみっともなくボロ泣きしていたことを思い出してその気配に背を向けた。



「ごめんなさーい、ありがとうございました!」



子どもの……女の子の、声だ。

俺は顔を背けるようにしたまま、無言で左手を伸ばして帽子を差し出した。

一瞬の間の後、手から麦わら帽子が離れていく。これで立ち去ってくれるだろうとひそかに息をついた俺は、次の瞬間ひょっこり自分の目の前に現れた顔に思いっきり驚いてしまった。



「うわっ!!」

「……おにーさん、泣いてたの?」



きょとん、と首をかしげる彼女の言葉にハッとし、急いで自分の目元をぬぐう。

けれどもう、涙に濡れた情けない顔はバッチリ見られていたらしい。傍らに立つ女の子は、じっと俺から視線を逸らさない。